イギリスのチャールズ皇太子も訪れ、ヨーロッパの王族やセレブの間でも密かに人気になっているというアドレーレ・アメラール(「白い山」の意)・エコロッジは、シーワ・オアシス郊外の塩湖の畔にあります。
カイロから車で10時間近く。やっと到着した時には、すでに夕闇が迫っていました。ロッジには電気がないため、窓から漏れる灯りもありません。土壁で塗り固められた建物は、背後の岩山と完全に一体化し、まるで要塞のようにも見えます。
まもなく薄闇から、民族衣装をアレンジしたエレガントな白いローブ(長衣)にターバンを巻いたスタッフがやってきました。うやうやしく頭を垂れると、そのまま部屋に案内してくれました。レセプションらしきものはなく、部屋には鍵すらありません。オリーブの間伐材で作った閂(かんぬき)があるだけ。
「ディナーは何時になさいますか?」
確認すると、ローブの男たちは再び夕闇に消えていきました。
オアシスの天然素材と伝統技術を最大限に活用したエコロッジのデザインは、周囲の景観に完全に溶け込み、とてもシンプルかつスタイリッシュ。「カーシェフ」と呼ばれる、岩塩と粘土を固めた伝統建材を復活させた建物は、寒暖差の激しい砂漠気候でもエアコンなしで室内の温度を適切に保つことができます。冬場には、ラクダの毛布とふかふかの羽根布団の下に、「湯たんぽ」を忍ばせてくれます。これが不思議と朝まで暖かく、ぐっすりと眠れるのです。
天井はナツメヤシ材、家具は砂岩やオリーブの間伐材を有効利用しています。極めつけは、オアシスでふんだんにとれる岩塩を削って作ったベッドやサイドテーブル。壁のタイルや窓にも使われている岩塩は、アラバスター大理石【1】のように光を通し、室内を柔らかく照らしてくれます。
飲料水は、地下からくみ上げた1万年以上前の化石水【2】。天然のミネラルウォーターで、若干の塩分を含んでいます。排水は敷地内の施設で一次処理をしたあと、パピルスを茂らせた沼で浮遊物をバイオ分解するという念のいれよう。環境への負荷を最小限にする工夫が随所に取り入れられ、国連人間居住計画(UN-Habitat)などからも数々の賞を受けています。
60ヘクタールの広大な敷地内には、迷路のように繋がったコテージが、白い岩山を取り囲むように点在しています。個室の間には、バーやダイニングスペースなど自由にくつろげる共有の空間がいたるところに設けてあります。ローマ帝国時代から使われていたという、天然の鉱泉を利用したプールで読書を気取ってみたり、ミネラルを豊富に含んだシーワ湖のマッド・バスでエステをしたり。思い思いの時間を過ごした後は、ヤシの木陰のテーブルで、有機野菜をふんだんに使ったベジタリアン・ランチに舌鼓。野菜は敷地内の菜園で作られ、オアシス特産のオリーブやナツメヤシは、地元の契約農家から仕入れています。太陽の恵みをたくさん受けた野菜は、驚くほど甘味があります。
夕食【3】は、キャンドル・ライトに照らされたバーで食前酒を楽しんだ後、日替わりのプライベートダイニングで楽しむことができます。シェフのアテフさんはアスワンの出身。ミシュランに才能を認められ、パリで数カ月の修行を積んだこともあるそうです。アラブ・エジプト料理をベースにしながらも、オアシスの特産品を活用した独創的なメニューを次々と考案しています。
この知る人ぞ知るエコロッジのオーナーは、カイロで環境コンサルタント会社を経営する社会起業家ムニールさん。
次回はムニールさんが、「持続可能なビジネスモデル」を実践しようと始めたシーワ・イニシアティブについてご紹介します。
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